TCFDの取り組み

TCFD

三菱食品グループは、当社グループ存在意義としての「パーパス」を「食のビジネスを通じて持続可能な社会の実現に貢献する」と定めるとともに、目指す在り姿である「ビジョン」を「次世代食品流通業への進化(サステナビリティ重点課題の解決)」と定めております。当社グループは、気候変動をサステナビリティ重点課題の一つとして認識し、金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同するとともに、今後は、TCFDに沿った情報開示の拡充に取り組んでまいります。

ガバナンス

当社は、当社グループの事業活動を通じたサステナビリティ課題への取り組みを全社的に推進することを目的とし、2021年3月に「サステナビリティ委員会」を立ち上げました。
気候変動を含むサステナビリティ課題は経営会議(経営執行における意思決定機関)の諮問委員会である「サステナビリティ委員会」が主管しております。また、「全社リスクマネジメント委員会」とも連携して、気候変動にかかるリスク把握及び管理、具体的な対応戦略の立案・推進を担っております。
2021年6月にCSO(Chief Sustainability Officer)を設置のうえ、代表取締役社長が兼任し、気候変動に係る基本方針や重要事項について、サステナビリティ委員会での検討を経て経営会議にて審議・決定することとしております。同内容は取締役会に付議・報告(年2回)し、取締役会の監視・監督が図られる体制としております。

気候変動課題に関するガバナンス体制図

気候変動課題に関するガバナンス体制図

戦略

(1)リスク・機会の特定

当社グループの事業に影響を及ぼす気候関連リスク・機会の特定にあたり、事業における気候関連リスク・機会を抽出し、それらの財務インパクトを定性的に評価しました。

リスク・機会の主要因 気候関連リスク・機会 リスク・機会
発現までの期間
財務インパクト
(利益ベース)
移行リスク
炭素価格の導入・引き上げ 炭素価格の導入による操業コストの増加 中期
炭素価格の導入による仕入原価の増加 中期
燃料価格の上昇 燃料価格の上昇による輸送・保管コストの増加 中期
燃料価格の上昇による仕入原価の増加 中期
電力価格の上昇 電力価格の変化による輸送・保管コストの増加 中期
電力価格の変化による仕入原価の増加 中期
化石資源需要の低下 化石資源の需要の変化による蓄冷剤コストの増加 中期
物理的リスク
気温上昇による感染症リスクの高まり 気温上昇による感染症リスクの高まりに起因する
消費者の外食利用機会の低下
中期
風水災の頻発化・激甚化 風水災の頻発化・激甚化による事業拠点の被災 短期
風水災の頻発化・激甚化による
農場や圃場の生産力低下
短期
風水災の頻発化・激甚化による
サプライチェーンの途絶
短期
機会
共同配送、モーダルシフトの取組進展 共同配送、モーダルシフトの取組進展による、
輸送保管コストの低下
短期
再生材・バイオマス
関連技術の開発進展
再生材・バイオマス関連技術の開発進展による、
低環境負荷容器・包装製品の売上増加
短期

【リスク・機会発現までの期間】 ・短期:3年以内、・中期:3年超 10年以内、・長期:10年超
【財務インパクト】 ・小:10億円以内、・中:10〜50億円、・大:50億円超

(2)シナリオ分析のテーマ及び気候変動シナリオの設定

抽出・整理した気候関連リスク・機会について、財務インパクトの大きさや事業戦略との関連性を勘案し、当社として「重要度が高い」と評価した次の 3テーマについて、2℃未満シナリオである脱炭素シナリオを含む2つのシナリオにおける将来的な影響を分析しました。

シナリオ分析の対象範囲、テーマ

リスクの分類 対象範囲 分析テーマ
移行リスク・機会 三菱食品国内グループ(一部子会社除く) 炭素価格の導入が当社グループの操業コストに対して与える影響
三菱食品単体の卸売事業 サプライチェーン上流企業における炭素価格負担が当社商品仕入原価に対して与える影響
物理的リスク 三菱食品国内グループ全拠点 気候変動に伴う気象災害の増加が事業拠点に与える影響

シナリオの設定

脱炭素シナリオ 現行シナリオ
移行リスク

設定した外部シナリオ

  • SDS(※1)

事業環境認識

  • 各国のGHG(※3)排出量正味ゼロ(ネット・ゼロ)の誓約が達成され、産業革命以前に比べて世界の平均気温上昇が2100年頃に2℃を大きく下回る世界。
  • 各国が化石資源から転換するため、化石資源の価格が低下する傾向にある。
  • 企業のGHG排出量に炭素価格が課され、その価格は2030年では GHG排出量1トン当たり13,200円、2050年では22,000円と仮定。

設定した外部シナリオ

  • STEPS(※2)

事業環境認識

  • 各国が現時点で公表している計画に準じた排出経路により、産業革命以前に比べて世界の平均気温上昇が2100年頃に2.6℃程度となる世界。
  • 各国が化石資源に依存するため、化石資源の価格が高騰する傾向にある。
  • 企業の GHG 排出量に炭素価格が課され、その価格は2030年では t-CO₂当たり7,150 円、2050年では9,900円と仮定。
物理的リスク

設定した外部シナリオ

  • RCP2.6(※4)_SSP(※5)1-2.6

事業環境認識

  • 持続可能な発展の下で、工業化前を基準とする昇温(中央値)を2℃未満に抑える気候政策を導入。21世紀後半にCO₂排出正味ゼロの見込み。

設定した外部シナリオ

  • RCP8.5_SSP5-8.5

事業環境認識

  • 化石燃料依存型の発展の下で気候政策を導入しない高位参照シナリオ。
  • S D S : Sustainable Development Scenario
  • STEPS : Stated Policies Scenario
  • G H G : Greenhouse Gas(温室効果ガス)
  • R C P : Representative Concentration Pathways(代表濃度経路シナリオ)
  • S S P : Shared Socioeconomic Pathways(社会経済シナリオ)

シナリオ分析において参照した主な外部情報

情報提供機関 参照情報
IEA(※6) World Energy Outlook 2021
国立環境研究所 産業連関表による環境負荷原単位データブック(2015 年版)
国土交通省 洪水ハザードマップ
WRI(※7) Aqueduct Floods Hazard Maps, Inundation depth in meters forcoastal and riverine floods
IPCC(※8) AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis
  • I E A : International Energy Agency(国際エネルギー機関)
  • W R I : World Resources Institute(世界資源研究所)
  • IPCC : The Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)

(3)シナリオ分析に伴う対応戦略

当社グループはシナリオ分析を踏まえ、2050年カーボンニュートラルの実現に向けScope1(※1)及びScope2(※2)における削減ロードマップの策定に着手するとともに、将来的なScope3(※3)の把握や強靭なサプライチェーンの構築に向けて、食品業界各層と積極的な連携を推進してまいります。また、「食の安全・安心・安定供給」のさらなる実効性向上に向け、気候変動に伴う事業拠点の浸水リスク削減への投資方針検討など、オールハザードへの対応と強靭なサプライチェーン全体の体制構築に取り組んでまいります。

  • Scope1 : 事業者自らによるGHGの直接排出
  • Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出による排出量
  • Scope3 : Scope1,2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

分析テーマ① 炭素価格の導入が当社グループの操業コストに対して与える影響

【分析の前提条件】

  • 炭素価格の将来的な操業コストへの影響を予測するため、当社グループのScope1及びScope2 排出量に課される炭素価格による財務影響について、将来的な影響額の変化を分析しました。
  • 2020 年時点での影響額は軽微であるためゼロとしました。
  • 分析に当たり2030年、2050年における当社の活動量(排出量の増減要因となる事業活動の量)は2020年と同等としました。
  • 当社の事業戦略の強靭性を評価するため、脱炭素シナリオにおいては、当社が再生可能エネルギーの調達によりScope2の削減に取り組む事でどれだけ財務影響を抑えることが可能かについても検証しました。
    なお、本分析では、Scope1の削減活動による影響は評価していません。

【分析結果】

  • 2030年時点では、2020年と比較して、炭素価格による財務影響額が、再生可能エネルギーを調達しない場合、現行シナリオで約3.6億円、脱炭素シナリオで約6億円増加することがわかりました。
  • 2030年時点では、脱炭素シナリオにおいて、再生可能エネルギーの調達に取り組むことにより影響額を約2.1億円抑えられることがわかりました。また、当社のGHG排出量は主に電力由来であることから、電力の脱炭素化をより優先的に推進することが重要であると認識しました。
  • 2050年時点では、2020年と比較して、炭素価格による財務影響額が、再生可能エネルギーを調達しない場合、現行シナリオで約2.8億円、脱炭素シナリオで約3.5億円増加することがわかりました。
  • 2050年時点では、脱炭素シナリオにおいて、CCUS(※)等の普及により日本の電力の排出係数はマイナスに転じる予測となるため、自社で再生可能エネルギーを調達した場合としない場合でScope2 排出量由来の炭素価格による影響に差が生じないことがわかりました。また、Scope1 排出量由来の炭素価格による影響は2030年時点よりも大きくなる事が想定されるため、化石燃料を使用する車両や機器等の削減の取り組みがより重要となる事を認識しました。
    • CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素の回収・利用・貯留技術)

炭素価格による将来的な財務影響額(2020年からの変化)

  • 炭素価格による将来的な財務影響額(2020年からの変化)2030年

    端数処理しているため、脱炭素シナリオの「再エネ調達なし」「再エネ調達あり」における影響額の合計値の差と削減取組による削減額は一致しません。

  • 炭素価格による将来的な財務影響額(2020年からの変化)2050年

    脱炭素シナリオの「再エネ調達なし」「再エネ調達あり」において、日本の電力の排出係数はマイナスに転じる予測のため、Scope2由来の影響額はいずれもゼロとなる予測となりました。また、Scope1 の削減活動による影響は今回評価していないことから、Scope1 由来の影響額に差は生じません。

【対応戦略】

当社グループは今回の定量分析を踏まえ、Scope1及びScope2におけるGHG削減のロードマップを策定してまいります。Scope1については、2022年より環境配慮型車両の試験導入をする等、化石燃料由来のGHG排出量削減の取り組みを開始しております。Scope2については、当社グループの事業に及ぼす影響度の大きい電力の調達に関して、2022年4月より再生可能エネルギーを活用した環境配慮型電力契約への切り替えを進めております。
また、省エネ活動の推進、設備・機器等入替の投資検討を進めるとともに、その他の様々な取り組みを通じて2050年カーボンニュートラルの実現と脱炭素社会の構築に貢献してまいります。

分析テーマ② サプライチェーン上流企業における炭素価格負担が当社商品仕入原価に対して与える影響

【分析の前提条件】

  • 将来的に炭素価格が導入された場合の、当社の商品仕入原価への影響を予測するため、2030年、2050年におけるサプライチェーン上流のGHG排出量に課される炭素価格による、当社の将来的な財務影響額の変化を分析しました。
  • 2020年時点の影響額は軽微であるためゼロとしました。
  • 分析にあたり2030年、2050年における当社のサプライチェーン上流のGHG排出量は2020年と同等であり、当社の調達品目の生産から輸送にかかるGHG排出量に対して課される炭素価格が当社の購買価格に100%転嫁されるものと仮定しました。

【分析結果】

  • 当社の商品仕入原価への影響を試算した結果、2020年と比較して、脱炭素シナリオでは 2030 年時点で約970億円、2050年時点で約1,616億円増加することが想定されました。また、現行シナリオでは2030年時点で約525億円、2050年時点で約727億円増加することがわかりました。
  • 脱炭素シナリオにおける影響額は、2020年の仕入原価に対して、2030年時点で約4%増、2050年時点で約7%増のインパクトとなります。今後、当社の調達量やサプライチェーン上流における GHG 排出量が増加した場合には、影響額がより大きくなる可能性があります。

炭素価格による将来的な財務影響額(2020年からの変化)

炭素価格による将来的な財務影響額(2020年からの変化)

【対応戦略】

今回の定量分析においては、2020年ベースでのGHG排出量を基準とした試算ではありますが、当社グループが既にサプライチェーンにおけるGHG排出量の削減を目的に取り組んでいる施策が、将来的な仕入原価上昇の抑制に効果的であることを確認できました。現状の具体的な取り組み事例といたしましては、サプライヤーの配送効率化推進を目的とした納品与件の緩和やトラック入荷受付・予約システムを順次導入しております。強靭で持続可能なサプライチェーンの構築とGHG排出量の削減に向け、当社が主体となって取り組む施策の拡大に加え、食品業界各層とも連携しサプライチェーン全体の合理化に積極的に取り組んでまいります。

分析テーマ③ 気候変動に伴う気象災害の増加が事業拠点に与える影響

【分析の前提条件】

  • 気候変動に伴う気象災害の増加が当社グループの事業に与える影響を予測するため、当社グループの国内拠点(2021年10月現在)について、シナリオ分析を実施しました。
  • 分析では、RCP2.6(一部 RCP4.5)、及びRCP8.5の気候変動シナリオ下における各拠点の浸水リスクをベースライン、21世紀半ば、及び21世紀末についてそれぞれ評価し、さらに気候変動による全社的な財務影響を試算しました。

【分析結果】

  • ベースラインで浸水被害の懸念が高いと評価された拠点は、洪水浸水リスクでは53拠点、高潮浸水リスクでは14拠点となりました。
  • また、気候変動下で浸水被害の懸念が高いと評価された拠点は、洪水浸水リスクではRCP8.5下の21世紀末において69拠点に増加すること、高潮浸水リスクではRCP8.5下の21世紀末において21拠点に増加すること等がわかりました。
  • 次に、浸水被害の懸念が高いと評価された複数の拠点について気候変動による財務影響を定量評価し、さらに全社的な財務影響見込額を試算しました。
  • 以下に、気候変動に伴う洪水浸水リスクの増加による全社的な財務影響の試算結果(ベースライン比の損失増加倍率)を示します。
気候変動シナリオ 洪水浸水による損失増加倍率 (参考)
洪水発生頻度※
21 世紀半ば 21 世紀末
RCP2.6 約1.4倍 約1.4倍 2℃上昇時 約2倍
RCP8.5 約1.8倍 約3.6倍 4℃上昇時 約4倍
  • 出典:国土交通省「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」提言(2021 年 4 月改訂)

【対応戦略】

食のライフラインを支える当社グループといたしましては、気候変動に伴う災害等増加が見込まれる中でも「食の安全・安心・安定供給」を実現するため、BCP(事業継続計画)の策定・整備をはじめ、オールハザードへの災害対応として非常用発電機の設置や配送用燃料不足時を想定した配送燃料の確保などの強化を図っております。
今回のテーマ分析結果を踏まえ、 「食の安全・安心・安定供給」の更なる実効性向上に向け、気候変動に伴う事業拠点の浸水リスク軽減への投資方針検討に加え、災害時に出荷対応する代替センターを設定し速やかにリカバリー可能な物流体制を構築するなど、更なるオールハザードへの対応に向けたサプライチェーン全体の強靭な体制構築に取り組んでまいります。

リスク管理

当社は、サステナビリティ経営に係わる施策の検討・確認を行うサステナビリティ委員会において、事業活動における気候関連のリスクについて影響度・発生可能性の観点から評価を行っております。
発生した場合に当社の事業に大きな影響を与える、あるいは、当社グループの事業戦略との関連性が高い気候変動リスクについては、リスクシナリオを設定して分析し評価を行っております。また、主要な気候変動リスクについては、全社リスクマネジメントプロセスに組み込まれ、全社リスクマネジメント委員会において、他の事業リスクとともに評価・管理しております。

指標と目標

当社グループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、GHG排出量(Scope1,2)を管理しています。当社グループの事業活動に伴うGHG排出量について、2016年度を基準として2030年に60%削減することを目標としております。
これらの指標・目標に対する進捗を定期的にモニタリング・管理し、脱炭素社会の構築に向けた貢献をより確かなものにしてまいります。

指標 2020年 2021年 2030年目標
GHG排出量
[千t ー CO2e]
73.4
Scope1 : 15.9
Scope2 : 57.5
68.0
Scope1 : 14.7
Scope2 : 53.3
36.1
(2016年度比
60%削減)